1.適用基準日
2013年3月16日に米国特許改正法(AIA)が施行されました。今後は改正法(AIA)と旧法(Pre-AIA)のいずれが適用されるのか各出願について注意が必要となります。
一般的には、法改正があった場合、改正法の適用の見極めは、その国の実際の出願日が改正法の施行日より前かそれ以降かを基準とします。外国の優先権を主張する場合でもその国の実際の出願日を基準とし、国内優先権を主張する場合でも後の出願日を基準とします(少なくとも日本では)。
ところが、今回の米国改正では、新規性、進歩性などの判断が「有効出願日」を基準とするためなのか、有効出願日を基準として、改正法(AIA)と旧法(Pre-AIA)の適用が区別されます。有効出願日とは、優先権主張出願・仮出願(119条)、国内移行出願(365条(a))、国際出願( 365条(b) )、国際出願の継続出願( 365条(c) ) 、継続出願(120条)、分割出願(121条)の場合は最も早い出願日であり、それ以外は実際の出願日です。端的には、有効出願日は「優先日」と同じと考えてよい概念です。
このため、有効出願日(優先権主張日)が2013年3月16日以降の出願には改正法(AIA)が適用されます。
しかし、2013年3月16日より前の優先権の利益を受ける出願でも、その出願に2013年3月16日以降の有効出願日のクレームが1つでも含まれる場合には、旧法(Pre-AIA)ではなく改正法(AIA)が適用されます。
要するに下記のようになります。
(1)有効出願日(優先権主張日)が2013年3月16日以降の出願→改正法(AIA)が適用。
(2)2013年3月16日以降の米国出願(国際出願の米国指定含む)であって、2013年3月16日よりも前の優先権を主張する米国出願については、
・2013年3月16日より前の優先権が効かないクレームを含まない場合→旧法(Pre-AIA)が適用。
・2013年3月16日より前の優先権が効かないクレームを1つでも含む(または一度でも含んだことがある)場合→改正法(AIA)が適用。
(2)の場合(transition case)、ややこしいことに、米国の全クレームに優先権が効くか効かないかで、適用法が変わります。また、クレームごとに適用法を変えるのではなく、1つの出願に優先権が効かないクレームがあるかどうかで、その出願への適用法が決まります。
2.問題になりそうなケース
そろそろ、transition caseに該当する国際出願の国内移行が始まるので、あらためて注意が必要です。
特に問題になるのが、
・日本出願に記載されていない事項を外国出願(国際出願)向けに明細書に記載してクレームした場合(バイパス一部継続出願も含む)
・2013年3月16日より前の日本出願を基礎として、2013年3月16日以降の国内優先権を主張し、
さらにこれらを基礎に米国出願(国際出願)した場合、
・2013年3月16日より前の日本出願を基礎として、いろいろ追加して自己指定した国際出願を提出した場合です。
3.審査の便宜
審査官の便宜のため、2013年3月16日よりも前の出願を基礎として、2013年3月16日以降に米国出願を行ったものについて、2013年3月16日より前の優先権が効かないクレームを含む場合は、Statement の提出が必要です(Application Data Sheetへのチェックボックスへのチェックでも可)。
2013年3月16日より前の優先権が効かないクレームを含んでいないと合理的に信じていれば、Statementの提出は不要ですが、2013年3月16日より前の優先権が効かないクレームを含んでいると知っていて、Statementを提出しないと、誠実義務違反のおそれがあります。
4.米国出願、米国移行完了後の注意
(1)継続出願、分割出願、一部継続出願
2013年3月16日よりも前の出願の優先権を主張する2013年3月16日以降の米国出願から、優先権が効かないクレームを含む継続出願、分割出願、一部継続出願をする場合、改正法(AIA)が適用になり、Statement の提出が必要です。
(2)補正
優先権が効かないクレームを後から補正で導入する場合には、改正法(AIA)が適用になり、Statement の提出が必要です。外国向けに明細書を補充しておいたがクレームには記載していなかった場合、後からクレームに記載するとこうなります。
一方、2013年3月16日より前の出願の優先権が効くクレームであれば、後から補正で追加しても、継続出願しても、旧法(Pre-AIA)が適用されます。
(3)審査
審査が改正法(AIA)と旧法(Pre-AIA)のどちらで行われるべきなのか、そして審査官が適用法を間違えていないかも注意すべきでしょう。米国審査官が一番当てになりませんから。
よって、米国出願、米国移行完了後でも注意が必要です。