特許適格性(米国特許法 第101条)について、Federal Circuitから注目すべき判例が2つ出ました。
Enfish, LLC v. Microsoft Corp. (2016年5月12日)及び TLI Communications LLC v. AV Automotive, LLC (2016年5月17日)
Enfish判例は抽象的概念に該当しないと判断されたものであり、他方で、TLI判例は抽象的概念に該当すると判断されたものです。
TLI判例からわずか2日後の5月19日、米国特許商標庁は、特許適格性の判断基準に関する審査官向けメモランダムを発表しました。
アリス判決以来、ソフトウェア関連発明の審査では、仮に進歩性を有する発明であっても特許適格性を有しないために権利化が困難な状況が続いています。
そんななか、今回のメモランダムはソフトウェア関連発明の権利化にひと筋の光を与えるものと云えます。
メモランダムはEnfish判例に基づく新たなガイダンスを示しています。
このガイダンスによれば、特許適格性の判断ガイドラインにおけるステップ2Aの抽象的概念か否かの判断において、審査官は、従来どおり、「抽象的概念であると過去に判例で判断された概念」と類似しているかの判断をまず行う必要があります。しかし、発明がコンピュータ関連技術(コンピュータの機能)の改良をもたらす場合には、「抽象的概念であると過去に判例で判断された概念」と類似していないと審査官は判断することができるようになりました。そして、この場合には抽象的概念には該当しませんから、ステップ2Bのsignificantly more(抽象的概念をはるかに超えるもの)を有するか否かに進む必要がありません。
Enfish判例では、自己参照テーブルを用いてコンピュータのメモリを構成するという発明が、コンピュータ能力の改良に該当するか、コンピュータを単なる道具として用いたに過ぎない抽象的概念に相当するかが争点となりました。
この発明が既存のコンピュータ技術への改良であるかを判断するにあたり裁判所は明細書の開示を参照し、従来のデータベースと比較した効果として、「柔軟性の向上」、「検索時間の短縮」、および「必要なメモリ容量の削減」が明細書に記載されている点に注目しました。
そして、「改良」は物理的な要素の改良である必要はなく、Enfish判例の発明は「論理構造」や「処理のプロセス」の改良であるから、ソフトウェア分野における課題への解決手段としての特定の実装であると云え、よって抽象的概念には該当しないと判示しました。
Enfish判例は、明細書における効果の記載が抽象的概念か否かの判断において有利に働いた例です。
次回は、このEnfish判例を参考に、明細書の書き手にとってのヒントを探りたいと思います。
米国特許商標庁の審査官向けメモランダム↓
http://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ieg-may-2016_enfish_memo.pdf